次に、⑪の運転資本について説明します。
プロジェクトを実行する場合、一般的にはキャッシュの受け取りが発生する前に、キャッシュの支払いが生じることになります。
例えば、原材料費の購入代金の支払いが必要になりますし、商品の製造が完了しても、販売されるまでは在庫として積みあがっていくことになります。また、人件費も毎月支払いが必要になるのに対し、商品・サービスの対価を顧客から受け取ることができるのは、その商品・サービスの提供が完了してからになります。
また、特に顧客が法人のBtoB取引の場合、商品の提供からキャッシュの受け取りまでにタイムラグが生じることになります。そのような場合、現金で支払われることは稀であり、一時的に売掛金として計上し、一定期間が経過後にキャッシュを受け取るということになります。
つまり、そのタイムラグ分のキャッシュを企業は保有しておく必要が生じるのです。
一方で、原材料購入費なども、すぐに支払う必要があるわけではなく、一時的には買掛金として計上して、支払期限が到来したら支払うことになります。
その為、売掛金全体についてキャッシュを準備する必要まではなく、売掛金から買掛金を除いた分についてキャッシュを保有しておくことが必要になります。
これらの流動資産と流動資本の差額を運転資本といい、その期に運転資本が増加した場合は、事業に必要な運転資本のために備えておく(≒投資する)ものとして、キャッシュフローからは減らす必要が生じるのです。
尚、運転資本については、ビジネスが伸びている場合はそれに応じて増加していきますが、成長が鈍化して安定していていけば、運転資本の増加も逓減していき、一定の水準で運転資本も安定します。
また、プロジェクトが終了した時、そのプロジェクトに必要であった運転資本はプロジェクト開始前の水準まで戻ることになりますので、その運転資本は取り崩されて正のキャッシュフローとして取り戻すことが可能になります。
(保有在庫が全て売り切れて、売掛金についても全て回収できる前提です。)
ちなみに、運転資本の計算については、そのプロジェクトのビジネスに関するものだけを計算に含めるべきです。
ビジネスに関係しないが財務諸表上は計上されている流動資産、流動負債については含めてはいけません。
運転資本については下記の計算式により求めます。
但し、貸借対照表上の流動資産、流動負債に計上されているものが全て運転資本に含まれるわけではありません。
上述の通り、貸借対照表上の科目によって決まるものではなく、「実際にビジネスを運営する上で必要になるかどうか」で判断されることになります。
※余剰現預金や投資有価証券については、ビジネス上必要とはいえないため運転資本には含まれません。
※短期借入金や1年以内返済予定の社債は、ビジネス上のものではなく、ファイナンス上のものですので、運転資本には含まれません。
あなたが2年間のプロジェクトを検討しているとします。
そのプロジェクトは運転資本として、1年目に500百万円、2年目に700百万円が必要であり、プロジェクト終了によって運転資本は必要なくなるものとします。
この場合、1年目、2年目、プロジェクト終了時点のそれぞれのキャッシュフローにはどのような影響があるでしょう。
1年目:500百万円 → マイナス500百万円
2年目:700百万円-500百万円=200百万円 → マイナス200百万円
プロジェクト終了時点: → プラス700百万円
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