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執筆者の写真Gary Tanaka

MBAファイナンス㉞:株式のプライシング

更新日:2021年4月9日



過去数回の記事では、債券に関して説明しましたが、これからの数回は株式について説明します。


発行時点で利息と元本の支払いについて確定している債券に対して、株式の価格の評価は以下の点で複雑になります。


・株主は会社の残余財産(純資産)に対する所有権を有しています。

・この残余財産は、仕入先・従業員・債権者・政府への支払いを終えた後に残る部分です。

・残余財産の価値も株価には反映されていますが、残余財産がいくらになるかを予測するのは困難です。


また、株価を決めるファクターである、将来の利益額、将来の配当額、将来の株価を正確に予測するのは困難です。


株価の予測は困難ですが、価格が将来のキャッシュフローを基準として決まるというのは債券と同じです。


1年後に期待される配当をD1、1年後の期待株価をP1とし、株式への投資家の期待する利回りをRとしたとき、現在時点の株価P0は、


P0 = D1 / (1+ R) + P1 / (1+R) と表現することができます。

この式を組み替えると、R = D1 / P0 + (P1 - P0) / P0 となり、


投資家の期待する利回りRは、株価に対する配当利回りとキャピタルゲインの利回りの和であるということがわかります。




上記の通り、株主の期待する利回りは、配当利回りとキャピタルゲインの利回りにより構成されています。

将来のキャッシュフローを割り引く際の期待利回りのことを「割引率」といい、この利回りは投資家が他の同じようなリスクの投資機会に投資した場合に得られるであろう利回りと同じになります。

つまり、この割引率Rは資本の機会コストであるということができます。

投資家は同じリスクの他の投資に投資した場合に得られたであろうリターンと同額のリターンを株式投資により要求するということになります。



1年後の株価と配当から割引率Rで割り引くことで、現時点の株価P0を求めることができます。

P0 = D1 / (1+ R) + P1 / (1+R)

しかし、企業は1年後に事業を停止するわけではなく、長期投資をする株主は1年後に売却するとも限りません。

では、2年後や3年後の株価と一定の配当からP0を求めるとどう表現できるでしょうか。


P0 = D1 / (1+ R) + D2 / (1+R)^2 + P2 / (1+R)^2

P0 = D1 / (1+ R) + D2 / (1+R)^2 + D3 / (1+R)^3 + P3 / (1+R)^3


と表現することができ、上記をひたすら繰り返すと、


P0 = D1 / (1+ R) + D2 / (1+R)^2 + D3 / (1+R)^3 + D4 / (1+R)^4 + .......... + ∞


と表現することができます。


配当が未来永劫一定である場合、その株価P0は配当Dと割引率Rによって

P0 = D / R で表現することができます。


もし配当Dが一定の成長率Gで成長し続けるとするとどうなるでしょうか。

この場合、将来の配当は、


D1 = D0 × (1 + G)

D2 = D1 × (1 + G) となります。


この場合のP0は、1年後の配当D1、割引率R、配当成長率Gによって

P0 = D1 / (R - G) と表現することができます。


この一定の成長率による株価の計算式はゴードンモデルと呼ばれます。

このゴードンモデルは以下の条件を満たす場合に成立します。


・事業が永久に継続される。

・配当額Dはプラスの金額であり、その配当は一定の配当成長率Gで毎年成長する。

・成長率Gは割引率Rより小さい。(GがRより大きい場合は、上記計算式の分母がマイナスになってしまいます。)


一つ例題で考えてみましょう。

1年後の配当が600円、割引率が15%、配当成長率が10%とした場合、その株価は、


P0 = 600 / (0.15 - 0.1) = 12,000 円となります。


もし、配当成長率が3%に下落した場合どうなるでしょうか?

P0 = 600 / (0.15 - 0.03) = 5,000円となります。


配当成長率はそのまま10%で、投資家の期待する利回りが20%に増加するとどうなるでしょうか?


P0 = 600 / (0.2 - 0.1) = 6,000 円となります。


割引率が増加すると株価は下落し、配当成長率が増加すると株価は上昇することがわかると思います。


最後に余談的な説明になりますが、この永久的な配当成長率Gを企業はどのように実現するのでしょうか?

企業は将来にわたって投資を繰り返し行い、正のNPVを実現することによって配当成長率を実現するのです。

(筆者は、事業の陳腐化リスクや企業の平均寿命が30年ということを考慮すると、永久的な正の配当成長率というのは安易に用いるべきではないと考えています。)



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ブログ管理人:田中ゲイリー

東京都出身。東京大学卒業後、都内金融機関にて投資銀行業務に従事。その後、米国へ留学しMBA(経営学修士)を取得。現在は、上場企業にて経営企画業務に従事する傍ら、副業としてITスタートアップにてCFOとして関与。
Blog Author: Gary Tanaka

CFO of the IT venture company (Data Analytics)

Finance / Corporate Planning / Ex. Investment Banker

University of Tokyo (LL.B) |

University of Michigan, Ross School of Business(MBA)

Tokyo, Japan

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